窒素問題の関連書籍・報告書・動画

書籍:林 健太郎・柴田 英昭・梅澤 有 (編著) (2021) 図説 窒素と環境の科学 -人と自然のつながりと持続可能な窒素利用-. 朝倉書店, ISBN:978-4-254-18057-2.

編著者を代表して林から、裏話を少し交えつつ本書の紹介をいたします。なぜ窒素を対象とした本書を作ったのか。それは、窒素が我々の生存を支えているいっぽうで、環境影響の原因にもなっていることが広く知られていないからです。本書は、環境面から窒素問題を体系的にとらえる本邦初の書籍です。なるべく読みやすいように、豊富な図表を用いた図説のスタイルとしました。

 

窒素そのものはどこにでもあります。何しろ、大気の約8割は窒素ガスです。ただし、この窒素ガス(2個の窒素原子がくっついたもの)はとても安定で、ほとんど何もしません。それゆえ窒息するわけで、「窒素」の語源となっています。我々は、大気中の窒素ガスからアンモニアなどの反応性のある窒素化合物を作り出して、化学肥料や工業原料としてたくさん使っています。ところが、人類が利用する窒素の多くが反応性を持ったまま環境へと漏れ出し、地球温暖化、成層圏オゾン破壊、大気汚染、水質汚染、富栄養化、および酸性化といった窒素汚染をもたらし、人の健康と生態系の健全性を脅かしています。肥料や原料としての便益を求める窒素利用が窒素汚染の脅威を伴うこの状況――トレードオフ――を「窒素問題」と呼びます。

 

もう少しお話しさせてください。私は、2000年代には野外観測・実験を中心に環境中の窒素動態の解明に取り組んでいました。炭素(二酸化炭素、メタン、土壌炭素など)の研究に取り組んでいる同僚はたくさんいたのですが(今もそうです)、窒素に関心を持つ人はとても少数派でした。「窒素も大切だよ」と言うと、「窒素はややこしいから(嫌だ)」と答えるのです。これでは炭素と窒素の環境科学の知識量に大きな差が生まれるのは当然です。研究者でさえこの有り様でしたから、窒素問題の大切さを他の方々に伝える機会は限られ、炭素問題に比べて窒素問題の認知度が低い根本的な原因になったのだと思います。この知識的ギャップを埋めることも本書を作る動機の一つでした。

 

以下、本書の各部・各節の内容を簡単に紹介します。葡萄茶色の各節のタイトルをクリックする度に説明が開閉します。たまに脱線します。本書がちょっと気になる方、また、本書を既にお持ちの方へのご参考として、お役に立てば幸いです。

第1部 つながりを知る総論

窒素は生命の必須元素の一つです。いっぽう、人類の窒素利用が様々な環境影響をもたらしてもいます。
ここでは、窒素とその化合物の特徴、環境との関り、歴史、さらには測定方法まで幅広く解説します。

第2部 日本の現状の理解に向けた各論

窒素は、肥料、原料、最近では燃料の可能性も含めて、我々の生活を支える大切な資源になります。いっぽう、この窒素利用が様々な環境影響をもたらしていることを第1部で述べました。
人間活動は多様です。そして環境も多様です。ここでは、2-1~2-8節で人間活動のそれぞれの要素について、2-9~2-12節で環境を構成するそれぞれの媒体について、窒素との関りを解説します。2-13~2-18節は、窒素利用の影響評価や、対策の打ち方に注目したトピックです。日本の事情や研究例をなるべく盛り込みました。
今後、内容をもっと充実させて、「日本窒素アセスメント」がまとめられたら(凄くいいなあ)と考えています。

第3部 国内外の取り組みと将来展望

第1部と第2部では、人類による窒素利用が多様な窒素汚染を起こしていることを様々な切り口で紹介しました。このまま推移すれば、将来世代とその頃の地球の生き物たちは相当な困難を背負うことになると懸念されます。ここでは、窒素問題の解決に向けた、あるいは解決に貢献しうる国内外の取り組みと関連技術を紹介します。

 

おまけ:引用文献について
本書では引用情報をしっかり入れ込むことを重視しました。
いっぽう、気になった文献を探す時にURLを手で打ち込むのは大変なこと、よくよくわかります。ご不便をおかけいたします。
いつか電子書籍化されることを期待しておりますが、ひとまず、論文ならば「著者名と雑誌の短縮名」を、資料ならば「タイトルの一部」を入力して検索されることをお薦めします。おおよそ欲しい情報に辿り着けると思います。
また、スペースを節約するため、英語論文の雑誌は略名であらわしています。そのまま検索しても多くの場合は辿り着けると思います。もし辿り着けなかったら、雑誌の略名に ", abbreviation" を付け足して検索してみてください。
知識を求むる方々に幸あれかし。


書籍:トーマス=ヘイガー (2017) 大気を変える錬金術【新装版】ハーバー,ボッシュと化学の世紀.  みすず書房, 東京, 344p.

人類が反応性窒素(大気の大部分を占める不活性な分子窒素N2を除く窒素化合物全般)を実質的に無尽蔵に手に入れられるようになったのは、20世紀初期にドイツにおいて開発されたハーバー・ボッシュ法のおかげです。本書はフリッツ=ハーバーとカール=ボッシュの人となり、ハーバー・ボッシュ法とそれを巡る時代背景の光と影の面を緻密に生々しく辿ります。化学史書であり、近代史書であり、読み応えのあるドキュメンタリーでもあります。一読をお薦めします(KH)。


報告書:UNEP (2019) 窒素問題の解決(The Nitrogen Fix: From Nitrogen Cycle Pollution to Nitrogen Circular Economy和訳版)

UNEP(国連環境計画)が2019年に発行した Frontiers 2018/2019: Emerging Issues of Environmental Concern(フロンティア2018/2019:新たに懸念すべき環境問題)という報告書の一章です。人類の窒素利用の恩恵とその環境影響について、豊富な図で簡潔にまとめられています。残念ながらUNEPでは日本語版を作成していないため、日本UNEP協会および地球環境戦略研究機関(IGES)のご協力を得て JpNEG メンバーが和訳しました。以下のとおり、IGESのウェブサイトから公開されています。ぜひご覧になってください(KH)。


動画:窒素のはなし~おもてとウラの顔(The Two Faces of Nitrogen)

2020年公開.ポルトガルの研究者チームが作成した5分ほどの動画に JpNEG メンバーが日本語字幕を付けました.我々にとっての窒素の恩恵,我々の窒素利用がもたらしている様々な問題,その解決の手立てについて簡潔に分かりやすく紹介しています.是非ご覧になってください(KH)。


動画:The Nitrogen Song - Ricky Kej

2019年公開.窒素と人類との関りを歌にしてしまった動画です.国際プロジェクトTowards INMSの一環で2019年10月にコロンボで開催された会合に合わせて,インドのRicky Kejさんが作曲したものです.英語ですが,動画に歌詞が流れます.わかりやすい英語です.ネタ?いやいや,中身はとてもまじめです(KH)。